バンド維新2008

バンド維新2008 / King Records KICC 682
1. 三枝成彰:序曲 機動戦士ガンダム逆襲のシャア
2. 西村朗:秘儀I〜管絃合奏のための
3. 服部克久:星への誘い
4. 一柳慧:Poem Rhythmic
5. 丸山和範:Cubic Dance*
6. 小六禮次郎:アンゼラスの鐘*
7. 木下牧子:サイバートリップ*
8. 北爪道夫:並びゆく友
航空自衛隊 航空中央音楽隊
指揮:佐藤義政/中村芳文*
2007年12月1/2日  航空中央音楽隊練習所にて収録

吹奏楽というものから離れて随分になるが、このジャンルで面白そうな作品が発表されたときけば一応チェックしてみるくらいの興味は未だ持ち合わせてはいる。
で、バンド維新2008である。これは日本作曲家協議会らの主催により2月に浜松で開催されたイベントで、協議会に所属する8人の作曲家がアマチュアを対象とした新作吹奏楽曲を書き下ろすという豪華なもの。吹奏楽曲の大半はこのジャンルの中でのみ名前を知られる作曲家(中にはその作曲能力を疑問視せざるを得ない『人気作曲家』も散見される)によって書かれており、こうした吹奏楽外でも名を知られる作曲家の作品が一度に8曲も生まれるのは稀有なことと言ってよい。2月の舞台初演は中高生の吹奏楽団によるもので、伝え聞くところによれば、決して易しくない作品を良く浚い込んだ熱演であったという。また、この企画の更なるポイントは、折角生まれた新曲を1度初演したのみで捨て置かず、出版、プロ演奏家自衛隊の音楽隊は、一般隊員とは違った音楽家に向けた採用枠で集められた、紛れも無いプロ演奏家の集まりである)を起用してのCD録音/リリースまでを一度に行うという点にある。これによって 浜松まではとても足を運べなかった私のような者も、どのような新作が初演されたかを知ることが出来るわけだ。
正直に言うならば、西村作品1曲のために購入したといっても過言ではないのだが、まあ予想通りというか、吹奏楽という編成から聴いたことのない響きを引き出した西村が、音響作曲家としての面目を保ち頭抜けた成果を上げている。もちろん、1990年代初期の「光の三部作」のような、西村の作品系列においての名曲と位置づけられる作品でないのだが、技術的に難しくなり過ぎないよう随所に手心を加えていて、聴いた感じほど困難な作品では無いところがなかなかに素晴らしい。弦楽4重奏曲の4番「ヌルシンハ」は全く逆だったが。CDでの演奏は、複数の異なった音価をもつ連符が錯綜する箇所など、もうちょっとキッチリ演奏されていたならば、ポリリズム的な重層性がより前面に押し出された、さらにレベルの高いものになったように思う。
一柳作品には彼の保守的な性格が良く反映している。1960年代、ニューヨークよりジョン・ケージの影響を持ち帰り、数々のイベントやパフォーマンスで日本の実験音楽を牽引したかに見えるこの作曲家は、心の奥底に極めて伝統的な感性を持ち続けていた作曲家でもある。80年代以降の管弦楽曲や、あるいはNHK大河ドラマ翔ぶが如く」の音楽などを聴けば明白なそうした傾向ゆえに 私はひそかに一柳を「日本のパーシケッティ(一柳のジュリアード音楽院時代の師でもある、アメリカの保守的な作曲家)」と呼んでいるのだが、師の吹奏楽曲と並べても何の違和感もないこの作品によって、その印象はゆるぎないものとなった。他方、何より古畑任三郎の音楽(本間勇輔)の編曲で知られる丸山の作品も、パーシケッティの「20世紀の和声学」的なブロックコードの連続だが、オーケストレーションは一柳作品より随分と派手。丸山が商業音楽的というべきなのか、それとも一柳が真面目すぎるのか。
北爪作品は、吹奏楽というとかく響きが濁りがちな編成から清冽な響きを引き出す手腕は相変わらずで、そうした意味では確かに「風の国」や「フェスタ」といった北爪の吹奏楽曲に繋がるものを感じさせるが、技術的/音楽的に手心を加えすぎの感もある。
その他は、既存の映像音楽の吹奏楽への編曲であったりと、取り立ててコメントするほどの作品ではない。ただし、「Zガンダムの音楽入ってます」と手書きPopを付けたら飛ぶように売れていった、とはタワーレコードの店員の弁。1982年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲になっていた「序奏とアレグロ」のおかげで現代音楽を聴き出した身としては、木下作品が少々微妙な作品だったのが残念。これなら、今年の吹奏楽コンクールの課題曲になっている浦田健次郎の作品の方が、旧守的な現代音楽の書き手としての十全な仕事だといえるだろう。

バンド維新2008~

バンド維新2008~