101年目からの松平頼則 I

 作曲家の松平頼則は松平頼孝子爵の長男として生まれた、今で言うところの正真正銘のセレブで、幼少時から青年期までを過ごした小石川の邸宅は敷地2700坪にも及ぶ広大なものだったという。ただ、この話は良く耳にするものの、この屋敷が小石川の何処に位置していたのかを詳しく記述した(音楽畑の)文献はなく、このことは前々からとても気になっていた。
 だが、敷地の大部分が東京大学本郷キャンパスへと姿を変えている加賀前田藩の上屋敷のような例でもない限り、既に跡形もない旧大名屋敷の位置を知るには図書館へと出かけ古地図を漁ったり、といった調査が必要となる。それでも、旧石岡藩主であった松平家のような名家ならば、パソコンに向かうだけでもそれなりの情報を手に入れることが可能かも知れない。
 で、調査の結果がコレなのだが・・・・・、正直、あまりに灯台下暗しな結果に、夜中にディスプレイの前で狂笑に近い笑い声をあげてしまいそうになる。
 

 それにしても「鈴木治行語り物全曲演奏」といった図音会のコンサートなどで、あれほどに通った小石川図書館の真横だったとは。ただ、これほどの大邸宅も、1926年の頼孝の破産によって人手に渡り、松平頼則は打って変わって極貧の生活を送ることになった。しかしながら、それ以後の松平頼則には20世紀日本を代表するウルトラモダニストとしての幸福な作曲家人生があったのである。

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 というわけで、7月16日に荻窪にて松平頼則の創作を俯瞰するコンサートを開くこととなった。
 この企画は、今後1年に1回から2回の割合で継続してゆく予定なのだが、当然、この日の入りが企画の成り行きを左右することは言うまでもない。未だ演奏されていない傑作がいくらでもある作曲家なので、そうした作品を継続的に紹介していければ良いのだが。今回は、松平がその創作の初期、中期、後期にそれぞれ書いたフルートのための作品が、日本の現代音楽フルートの第一人者である木ノ脇道元氏によって披露される間に、新古典期の総決算的作品であるピアノ・トリオと、独奏版は世界初演となるピアノのための即興曲とが挟まれる。特に、新古典主義的語法と雅楽を見事に結びつけた「ピアノ・トリオ」は、いわゆるクラシック的な日本の作品を求めている方にとっても興味深いものとなるだろう。


第24回<東京の夏>音楽祭2008 関連公演
101年目からの松平頼則 I
日本音楽史上の奇蹟:松平頼則を聴く 〜新古典作品から前衛作品まで〜


2008年7月16日 開場:18:45 開演:19:15
杉並公会堂 小ホール(JR中央線 東京メトロ丸ノ内線 荻窪駅北口より徒歩7分) 
全席指定:前売り3000円、当日3500円

チケット取り扱い:ローソンチケットLコード:34163)
0570-000-407(オペレーター対応 10:00-20:00)
0570-084-003(自動)
後援:上野学園大学
協賛:<東京の夏>音楽祭 SONIC ARTS
助成:財団法人 アサヒビール芸術文化財団 財団法人 ローム・ミュージック・ファンデーション 
お問い合わせ:http://d.hatena.ne.jp/Y-T_Matsudaira/
演奏予定曲目(全曲松平頼則作品):

「フリュートとピアノのためのソナチネ」(1936)
木ノ脇道元(fl)、井上郷子(pf)

「ピアノ・トリオ」(1948)
阪中美幸(vn)、 多井智紀(vc)、 萩森英明(pf)

「蘇莫者」(1961)
木ノ脇道元(fl)

「呂旋法によるピアノのための3つの調子」(1987/91 第2.3曲は独奏版世界初演)
井上郷子(pf)

「音取、品玄、入調」(1986)
木ノ脇道元(fl)、神田佳子perc)