ジョン・ケージのナンバーピースから

The Number Pieces 2 - Five 3

The Number Pieces 2 - Five 3

ジョン・ケージは、1987年以降その死の年(1992年)まで、ナンバーピースと呼ばれる演奏者の人数をそのまま題名とした作品を発表し続けた。Fiveと名の付いた作品は全部で5曲書かれ、それぞれが異なる曲想を持っているが、このCDに収められているのはその3番目の作品。標題に添えられた3は、その「3番目」ということを示す指標である。
全5曲の中でも飛びぬけて演奏時間が長い《Five^3》は、弦楽4重奏とトロンボーンのための微分音作品であり、驚くべきことに半音を7等分(!)する超微分音スケールが用いられている。
半音を7等分するなら、その音程間隔は14.3セントとなる。これは、平均律での長三度音程と純正調でのそれとの差異(13.7セント)とほぼ変わらない。
専門的なことはともかく、これはもはや超絶的な絶対音感の持ち主であろうと、耳に頼って演奏できるレベルではない。だが、指板やスライドの幾何的分割で音程をとることが可能な弦楽器とトロンボーンならば、どうにか演奏も可能となるだろう。
しかしながら、弦楽器は弾き続けると弦が緩んで音程が下がってしまうし、管楽器は管内の温度が上がれば音程も上がってしまう。半音を7等分するような超微分音を演奏する際には、その影響は当然考慮されなければならない(さもなければ、誤差1キロの体重計に乗って、100グラム単位の体重の増減に一喜一憂するような、語るも馬鹿馬鹿しい状況へと陥ってしまうに違いない)。
だからこそ、奏者は常にピアニシモで演奏することを要求される。ごくたまに、トロンボーンへと割り当てられるスフォルツァンドが、音楽を分節化してゆく様が心地よい。演奏時間40分。演奏者も作品のコンセプトを理解した素晴らしい演奏を披露しており、アルディッティ弦楽4重奏団が関係した多々あるアルバムの中でも、極めて貴重なものの一つと言えるだろう。