高橋アキの世界

高橋アキが初演し、あるいは彼女に捧げられた作品は数多い。武満徹:「閉じた眼I」、湯浅譲二:「オン・ザ・キーボード」、「内触覚的宇宙II」、一柳慧:「ピアノ・メディア」、西村朗:「ヴィシュヌの化身」、松平頼曉:「ピアニストのためのアルロトロピー」、高橋悠治:「メアンデル」、坂本龍一:「分散・境界・砂」、三輪眞弘:「東の唄」。今、思いつくだけでも実にこれだけの作品が、高橋悠治実妹でもあるこのピアニストの演奏によってこの世の中に出された。「ハイパー・ビートルズ」という世界の著名な現代音楽家によるビートルズの編曲シリーズを含めると、どれだけの作品がこのピアニストによって初演されているのか正直見当もつかない。

高橋アキは、1960年代末に武満徹作品の演奏で楽壇に登場し、1973年には「高橋アキの世界」という実に3枚組のアルバムをリリースするという破格のレコードデビューを果たした。芸術祭優秀賞まで受賞したこのデビューアルバムに収録された作品には、一柳慧の「ピアノ・メディア」、湯浅譲二の「オン・ザ・キーボード」など、日本ピアノ曲史上のマスター・ピースとして、今なお演奏されている作品が幾つも含まれているのだから、世に出した作品が片端から忘れられていく創作の現場にあっては、やはり特記すべきことと言わざるを得ない。さらに、このアルバムのための委嘱作品が2曲(三枝成章高橋悠治作品)書かれ、オリジナルのLPには大盤振る舞いというか何と言うか、2曲の譜面すら封入されていた。

このうち2枚分は、すでにCD化されていたのだけど、クセナキスの「ヘルマ」や、ブーレーズの「第一ソナタ」、シュトックハウゼンの「ピアノ曲XI」など、海外の現代音楽作品を収録した1枚だけは、CD化されずに放置されていた。高橋アキによるブーレーズシュトックハウゼンはこのアルバムでしか聴けず、演奏も申し分なく、ブーレーズをリスペクトし、デートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン(DCPRG)の楽曲に「構造」なんて題名をつけていた菊地成孔が、イベントなどでしばしばかけていたのはまさにこの音源だったというのに。

今回、EMIとタワー・レコードとの共同企画により、この未CD化の1枚を含めた全3枚組のCDとして復刻されることになり、不肖私が楽曲解説などライナーノートを執筆することを仰せつかった。オリジナルのLPには、ライナー・ノートというよりは、むしろ本に近いような立派な解説が付随していたのだが、さすがにそれをCDにつけることは不可能で、私に執筆のお話が廻ってきたのだと思う。いや、字数制限がタイトで、各曲のまったくバラバラな性格の違いについて紹介しつつ、作曲年など曲に関連する情報を織り込んでいくのは、正直逃げ出したくなるほど大変だったのだけど、字数が少なくなった分、簡潔になったともいえ、現代音楽入門者向けには特に良い感じのものになったのではないかと思う。苦労した甲斐はあったと思うので、興味がある方は是非お買い求め頂きたい。タワー・レコード店舗/サイトで購入できる。

高橋アキの世界

高橋アキの世界

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ところで、年末年始のもろもろや「101年目からの松平頼則II」に向けての準備(主に助成金の申請)などで、「そら飛ぶ庭」の原稿にかける時間が殆どなく、落とさずに執筆するのがやっとだったのがここ2回。かといって、blogにかけば済むようなお手軽な内容では済ませたくないので、爆死状態になっているのがチラホラ。これらはこれから改稿していく心算。改稿が済んだら、ここでもアナウンスする予定なのでよろしくお願い申し上げる。