木下正道氏による渾身の企画をご紹介すること

木下正道氏といつごろから知り合いになったのかは良く覚えていないのだけど、2002年のリュック・フェラーリの初来日の際とか、中村和枝、山本裕之両氏によるコンサート企画:ピアノ接近物語であるとか、座席の位置が本質的に聴取へと関わってきそうな公演で、私がコレと思った席のそばに決まって陣取っているスキンヘッドの男がいて、それが木下正道氏だったということだけは記憶している。


木下正道氏

同じ西武新宿沿線に住んでいることもあり、コンサートの帰りにはたびたび一緒になり、お互いが立ち上げた企画について意見を交換したりしてきた。拙企画の「101年目からの松平頼則II」ではステマネもお願いし、最大演奏者数11人となるステージを見事に切り盛りしていただいた。

で、今回、木下氏が吉村七重、鈴木俊哉、多井智紀という世界レベルで現代音楽演奏の一線に立つ演奏家を3人集め、松平頼曉と平石博一という、私の言うところの日本の「1拍子陣営」を代表する作曲家に作品を委嘱したというので、特にご紹介してみる次第。

1拍子陣営というのは、ある夜中、八村義夫が松平頼曉邸に電話をかけてきて、「松平さん、時計の針の音って何拍子かな?」と突然に切り出し、松平が「1拍子だ」と即答したという話に由来する。要するに、時計の針の音に何らかの拍子感を感じずにいられない八村と、時計の針を刻むメカニズムは常に同じなのだから、拍子感など存在するはずもなく、いうなれば一拍子だという松平、そういう相反する音楽性をもつ作曲家が日本にはいる(いた)ということ。

八村の立場を表現主義に、松平の立場を新古典主義と連関させることが可能で、特に後者はストラヴィンスキーと強く結びつく、という文章をかつて書いたりもしたわけだが、(「18人の音楽家のための音楽」くらいまでの)スティーヴ・ライヒの音楽もまた、こうした文脈の上に置くことが出来るはずだ。ただ、そうした音楽に対する共感は、今の日本の音楽界、特に現代音楽周辺には一見あるようで、実は悲しくなるほどに、ない。「現代音楽のスペシャリスト」として売り出している指揮者の音楽性が、一皮剥いたら悲しいほどに(悪い意味で)吹奏楽的だったり。というわけで、新古典的主義を前衛として再定義し、その系譜に連なる作曲家の作品に改めて耳を傾けることこそが必要なのだ。ゆえに、松平頼曉と平石博一という作曲家を中核とした、今回の企画の趣旨に強く賛同する。

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以下主催者情報

吉村七重 (二十絃箏)、鈴木俊哉 (リコーダー)、多井智紀 (チェロ)トリオ演奏会
2009年11月14日(土)・17時30分開場、18時開演
淀橋教会 ・小原記念チャペル
東京都新宿区百人町1-17-8
JR総武線大久保駅下車、徒歩1分
JR山手線新大久保駅下車、徒歩3分

全席自由/前売り3000円/当日3500円

プログラム
松平頼暁「Evocation」(トリオ)
平石博一「BLUR」(トリオ)
望月京トッカータ」(二十絃箏、リコーダー)
渡辺俊哉「題名未定」(リコーダーソロ)
渋谷由香「ポケットの中の風景」(リコーダー、チェロ)
木下正道「crypte 4-b」(チェロソロ)


渡辺俊哉


渋谷由香氏

お問い合わせ先
木下 largetamtam(atmark)gmail.com

主催:木下正道
後援:ミュージックスケイプ

吉村七重さん、鈴木俊哉さん、多井智紀さんという、それぞれ希有の演奏家の御協力を得て、御三人のトリオの演奏会を開く事になりました。二十絃箏、リコーダー、チェロという、それぞれ出自も歴史も発音原理も演奏する姿勢(!!)も異なる3つの楽器の組み合わせには,どのような音楽がふさわしいのか、しばし考えた結果,松平頼暁さんと平石博一さんのお二人にまずは頼んでみよう,という結論に至りました。このお二人であるならば,楽器の来歴、機能、演奏家の身体性などを深く考慮し踏まえつつも、我々が思いもしなかった地点からそれらを再編成、再構築して、創造的で刺激的な作品を生み出してくれるはずだ、と確信したからです。お二人にも作曲の御快諾をいただき,本当に感謝いたしております。この二曲に日本の比較的若い世代の作品を織り込み、淀橋教会・小原記念チャペルの素晴らしい空間で過ごすひと時、皆様のご参集を心より御待ちいたしております。
最近、淀橋教会・小原記念チャペルは、残響が少し落ち着いたように思います。以前は,やや響き過ぎかな,とも思ったのですが・・・
ということで、非常に音楽会向けになりつつあるすてきなチャペルでのひととき,ぜひぜひご参集ください!!!!!